「神保町 タンゴ喫茶劇場」の世界
2011年06月30日 20:59� 東スポWEB「雑記帳」阪本良
世界最大級の古書店街として知られる東京・神田神保町。その路地裏にこんな世界があったのかと驚かされるのは、最近発刊された堀ミチヨ氏著のエッセイ「神保町 タンゴ喫茶劇場」(新宿書房)だ。筆者が「さびしんぼ横丁」と名づけた神保町の路地裏の独特な世界。さらには路地裏のタンゴ喫茶を舞台に、どこからともなく集まる客たちの面白おかしい人間模様を、独特のタッチで生き生きと描いている。
神保町の大きな通りと中くらいの通りの間にある「長さ六十七歩、幅四歩」の小さな通り。その路地裏にあるタンゴ喫茶。
「昔は新宿のまりもと、高田馬場のBOCAと、ここで東京三大タンゴ喫茶だったが、ここ以外は昭和四十年代になくなった」という店の客の話が登場する。有名なタンゴ喫茶のようだ。タンゴ通なら、ああ、あの店と思い当たるかもしれない。タンゴの曲名も文中に飛び交うが、タンゴには疎くても、店を訪れる人たちの多彩なエピソードには思わず笑わされたり、ホロリとさせられたり、惹きつけられる。
店の女性従業員や見知らぬ女性客にまで「オッパイ貸して」と話しかける占い師のオジサン、「鯛焼きの顔立ち」にこだわり、「美形の鯛焼き」を探して店のスタッフに買ってくる「省庁務めのハラダさん」、酔っ払ってレンガ敷きの店の床の上に寝てしまったキャバクラ好きの僧侶、四十代前半の女性と五十代半ばの男性の不倫カップルの店内でのプレイ、はたまた、六十代半ばのゲイのカップルや「自称もうすぐ百歳」の「詩人のリリィ」などなど枚挙にいとまがない。一体どこからこれだけ次々にキャラの立った人たちがやってくるのかと、「タンゴ喫茶騒動記」はそのまま映画になりそうなドラマトゥルギーにあふれている。 |